研究概要 |
酸化チタンはバンドギャップ以上の紫外光で,結晶表面に正孔と呼ばれる活性種と溶液中に酸化能の高いOHラジカルが生成し,直接または間接的に有機物を分解することが知られている。光触媒反応は,酸化チタン粒子を液中に懸濁させる方法や,無孔性基材上へのコーティング膜などとして研究されているが,本研究では,多孔性チタニア膜を作製し,透過を伴う光触媒膜型反応器を提案する。このシステムでは,ナノ細孔内に対流により輸送される有機物は,細孔内に高濃度に存在するOHラジカルにより分解・除去されると考えられる。有機物の分子量と膜細孔径に応じて,細孔を透過しながら低分子溶質を分解し,浄化された透過液を得ることや,ファウリングした高分子溶質を分解することで透過流束が回復することが期待できる。 多孔性酸化チタン膜の純水透過流束は約0.2×10^<-6>m^3m^<-2>s^<-1>であったが,PEI水溶液を供給すると透過流束は約0.05×10^<-6>m^3m^<-2>s^<-1>へ大きく減少した。pH10.5ではチタニア表面は負のゼータ電位を有するため,正荷電高分子電解質であるPEIが膜表面にファウリングしたためと考えられる。その後紫外線照射を開始すると,約0.1×10^<-6>m^3m^<-2>s^<-1>まで回復した。さらに紫外線照射を停止すると,透過流束は元のレベルまで減少した。これは紫外線により表面および細孔内に存在するファウリング物質が光触媒反応により分解・除去されたためと考えられる。 トリクロロエチレン(TCE)を用いた光触媒反応実験の結果では,紫外線を照射しなかった実験開始60分は,供給濃度と透過濃度はほぼ同じ値を示し,酸化チタン膜によるTCEの除去性は発現しなかった。紫外線照射を開始すると,透過濃度は供給濃度に比べて約60%減少した。その後再び停止すると,供給濃度と透過濃度は同じ値を示した。これはTCEが膜透過しながら分解したためと考えられる。多孔性チタニア膜を用いた膜透過型光触媒反応器により,透過中の有機物の分解が可能であることを明らかとした。
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