研究概要 |
光合成無機独立栄養生物で単細胞性、原核生物の藍色細菌Synechococcus sp.strain PCC6301は文献に記載されている光合成生物の中では増殖速度が最も高く、しかも乾燥菌体重量当りのD-グルコース含量が0.501g/gに達するため、著者らは排ガス二酸化炭素を燃料エタノールに変換するための有望なバイオマスとして注目している。この細菌は、CO_2濃縮機構(CCM)を有しているため、CO_2処理用の触媒としての価値も極めて高い。ただし、CO_2濃縮機構により蓄積したCO_2の一部だけが光合成によって糖化されるため、未反応濃縮CO_2の有効利用法の開発が重要と成っている。本研究では、この問題に対処すべく藍色細菌Synechococcus sp.strain PCC7942-SPcに対し、化学的暗反応によって独立栄養的にCO_2消費(化学合成)反応を行う酵素の一つであるカルバモイルリン酸シンターゼ(CPSase)の遺伝子発現を促すような分子育種を行い、光合成、化学合成の複合機能の高活性化によりCO_2処理用の触媒としての価値を向上させることを目的とした。特に、アンモニウムとCO_2からカルバモイルリン酸を生成するCPSサブユニットをコードする遺伝子(carB)のクローニングを行った。藍色細菌Synechocystis sp.strain PCC6803由来のcarB遺伝子3,340bpを同菌ゲノムDNA断片より取得しPCRにより増幅した。大腸菌Escherichia coliBL21(DE3)に形質転換し発現解析を行ったところ活性は確認できなかった。次に大腸菌DH5 αゲノムcarB遺伝子をクローニングし、CPS活性の低い大腸菌C600に形質転換した。その結果、CPS比活性が146μmol/min・gの化学合成CO_2固定能を付与することに成功した。藍色細菌発現用ベクターpNT101にこの遺伝子を組み込みSynechococcus sp.strain PCC7942-SPcを形質転換したが、現時点では、顕著な発現量は確認できていない。今後、プロモータの強化、ゲノムへの相同組換えなどの手段の検討が必要と考える。
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