生体系のみならず、海水および淡水中に生息する無数の付着生物はタンパク質や多糖の表面(界面)における付着・接着現象を利用して生命活動を維持している。この全プロセスは生体工学そのものであり、in vitroにおける部分的な模擬システムも研究されている。我々は、海洋に関心のある人々に永くその付着が謎とされてきた海産大型付着動物フジツボ、及び、イガイ類の流水中での付着・接着の基礎科学の解明とその次世代バイオテクノロジーの素材開発について行った研究を列挙する。 1.新規な海洋タンパク質の発掘と分子構造解明 現在、実際に付着汚損被害を生じている外来付着生物を調査し、新規かつ有用な接着タンパク質の発掘を行う。一例として、外来種であるミドリイガイの接着タンパク質の精製と構造解析を行い、接着力および分子構造との関連づけた。この結果から、ミドリイガイ接着タンパク質が新規な糖複合タンパク質であることを明らかにした。 2.イガイ類足糸を模倣した高強度繊維材料の開発 接着タンパク質と天然多糖の複合材料系を研究し、バイオミメティックな超強度材料の作成を検討した。イガイ足糸を模倣した高強度繊維の開発のため、イガイの足糸形成機構に基づき、ポリペプチドの分子を設計し、実際に、合成、繊維化、機械的特性の評価を行った。 3.接着タンパク質関連化合物の動的濡れ性測定 海洋接着タンパク質の表面科学を実験と理論との両面から調べた。タンパク質分子の表面自由エネルギー、極性力・分散力成分および動的濡れ性をアミノ酸配列と組成に基づき、系統的に把握するための実験を行った。得られた知見から、バイオ接着タンパク質の分子構造、さらに、複合材料系の調製を含む生物接着工学材料系を設計し、次世代マテリアルとしての評価を行った。
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