本研究では、末梢リンパ組織で発現したRAGの生理的役割は何かについて、特に、それが抗体応答において抗体レパトアの多様化にどのように寄与しているかに焦点を絞って解析した。通常、抗体の親和性成熟は体細胞変異によるBCRの多様化と高親和性クローンの選択により起こるとされている。抗NP抗体のH鎖VDJ(VHT)をノックインしたマウスでも、15-20%の末梢B細胞はVHTが他の内因性VHに置き換わっている。このVHT陰性B細胞のうちλ鎖を持っている細胞は更に少なく全体の2%以下である。このマウスを、P-nitrophenyl(pNP)ハプテンで免疫すると、VHTを使っていない抗pNP IgG抗体が主として産生され、高親和性抗体の大部分がλ鎖陽性抗体であることが分かった。λ鎖陽性の抗pNP IgGの出現が、免疫後に末梢リンパ節で起こるλ鎖遺伝子の再構成に依存するかどうかを、抗IL-7R抗体の投与で末梢でのRAG発現を抑制することにより検討した。、免疫後に誘導されるリンパ節でのRAG発現が抑制されると、λ1遺伝子の再構成も阻害され、λ鎖陽性抗体の産生が減少した。その結果、全抗体のレベルは変化なかったが、抗体の親和性成熟は有意に抑制された。以上の結果は、免疫後に誘導されるL鎖の再構成が、体細胞変異と並んでBCRの多様性を産み出すのに寄与していることを示唆している。免疫系は、末梢において更に抗体の特異性を改変する能力を保持しており、高親和性抗体の産生に寄与する巧妙な機構が存在することが明らかとなった。
|