本研究は、生体内の一酸化窒素の検出、イメージングのための新しい分子プローブの開発と、その性能評価である。 今回、開発したものは、スピンプローブと蛍光プローブである。まず、スピンプローブとしては、全く新しい機構に基づく、スピン交換の概念を提唱し、これを利用してサルコシンジチオカルバメートー鉄(II)錯体とTEMPOLを用いて、NOラジカルを安定で高感度検出可能なTEMPOLラジカルに変換する分子システムを設計、合成することに成功した。得られたプローブは、NOと直接反応してTEMPOLラジカルを生成し、その検出感度は、従来のNOスピントラップ剤に比べ25倍以上の感度を有していた。すなわち、このプローブを用いて従来は測定不可能であった、生理的NOも計測できる可能性があることが分かった。選択性を調べたところ、亜硝酸イオンや過酸化亜硝酸ではシグナルを与えず、NO選択的であった。 一方、蛍光プローブとしても、今回考案したスピン交換の概念を応用し、蛍光基としてアクリジンをアミド結合によりTEMPOに導入した化合物を用いて、これを前述のジチオカルバメート-鉄(II)錯体と組み合わせることにより新規な蛍光プローブ分子を設計、合成した。この分子は、TEMPOと鉄の相互作用により、蛍光を発しているが、NOにより、蛍光部分が解離し、TEMPOLラジカルが生成するため、アクリジン部の蛍光が消光することにより、NOの検出、定量が可能あった。この分子設計概念を用いれば、今後、2波長型測光が可能な実用的蛍光プローブが開発できると考えられ、検討していく予定である。
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