本年度は、前年度に見い出したradical-exchangeの概念を詳細に検討し、まず、ジチオカルバメートー鉄(ll)錯体にアクリジン標識TEMPOを配位した分子プローブを開発した。このプローブは、radical-exchangeの概念に従って、NOを捕捉し、アクリジン標識-TEMPOを放出した。その結果、TEMPOラジカルの発生に伴い、アクリジンの蛍光が減少した。この蛍光減少からNOを特異的に計測できることが分かった。さらに、radical-exchangeの概念を検討した結果、サイクラムー鉄(ll)錯体でも、同様の機構によりNOとTEMPOラジカルが交換できることを見い出し、これを利用して蛍光エネルギー移動概念を導入した新たな、波長シフト型蛍光プローブを開発した。このプローブは、サイクラムにクマリン型蛍光基を標識し、フルオレスカミン標識TEMPOを配位させたものであり、クマリンを励起すると、蛍光エネルギー移動によりフルオレスカミンが発光した。一方、NOを補足するとフルオレスカミン標識TEMPOが放出され、蛍光エネルギー移動が消失すると共に、発生したTEMPOラジカルによりフルオレスカミンの蛍光が消光するため、クマリンの蛍光が現れる。従って、クマリンとフルオレスカミンの蛍光強度比を計測すれば、バックグラウンド蛍光に左右されず、NOを直接計測できる優れたプローブとなることが分かった。これにより、独自の概念であるradical-exchangeを用いて、高感度な一酸化窒素計測スピンプローブ及び、蛍光プローブを設計する手法が確立した。
|