平成12年度は、高感度な一酸化窒素計測プローブに必要な化学構造の必要条件を、種々のジチオカルバメート-鉄(II)錯体を合成し、検出能を評価することで検討して高感度化に必要な構造的条件を抽出した。さらに、ジチオカルバメート-鉄(II)錯体も用い、TEMPOLと組み合わせることにより、NOとTEMPOLが鉄上で交換する、Radical-Exchangeという、全く新しい概念を創出した。これにより、従来のスピントラップ剤にくらべ格段に高感度に一酸化窒素を検出できるプローブの開発に成功した。また、平成13年度は、Radical-Exchangeの概念を蛍光プローブに応用し、ジチオカルバメート-鉄(II)錯体にアクリジン標識TEMPOを配位した分子プローブを開発した。このプローブは、NOを捕捉し、アクリジン標識-TEMPOを放出することで、アクリジンの蛍光が減少し、この蛍光減少からNOを特異的に計測できることが分かった。さらに、radical-exchangeの概念を検討した結果、蛍光エネルギー移動概念を導入した新たな、波長シフト型蛍光プローブを開発した。このプローブは、サイクラムにクマリン型蛍光基を標識し、フルオレスカミン標識TEMPOを配位させたものであり、クマリンを励起すると、蛍光エネルギー移動によりフルオレスカミンが発光した。一方、NOを補足するとフルオレスカミン標識TEMPOが放出され、蛍光エネルギー移動が消失すると共に、発生したTEMPOラジカルによりフルオレスカミンの蛍光が消光するため、クマリンの蛍光が現れた。このプローブは、バックグラウンド蛍光に左右されず、NOを直接計測できる優れたプローブとなることが分かった。これにより、独自の概念であるradical-exchangeを用いて、高感度な一酸化窒素計測スピンプローブ及び、蛍光プローブを設計する手法が確立した。
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