研究概要 |
高等植物,ラン藻など酸素発生型光合成器官の光化学系I反応中心(P700)近傍に1〜2分子だけ検出されるクロロフィルa'(Chl a'=多量色素Chl aのC13^2立体異性体)の機能サイト解明を目指し,タンパク質分画法と分析HPLC条件の最適化を行いつつ,高等植物,好熱性ラン藻Synechococcus elongatus,ラン藻Spirulina platensis,緑藻Chlamydomonas reinhardtiiなどを試料として,さまざまな段階に純化した光化学系I粒子につき,(1)HPLCによるChl a, Chl a', PhQ(フィロキノン=光化学系Iコアに2分子だけ存在する二次電子受容体)の量比計測および(2)光酸化法または化学酸化法によるP700の定量を行った。その結果,検討したすべての光合成生物で,チラコイド膜,native PS I粒子,CP-I(光化学系Iコア粒子)のいずれについても,Chl a'/P700およびPhQ/Chl a'のモル比はそれぞれ1および2となり,1分子のChl a'がP700と緊密なリンクをもちながら光化学系Iコアで機能していることが確認された(2001年6月,ベルリン工科大学のWittグループが好熱性ラン藻Synechococcus elongates光化学系Iタンパク質複合体のX線構造解析結果を報告し,P700がChl aとChl a'のヘテロ二量体であることを示したため,少なくとも当該ラン藻についてChl a'の機能サイトは確定した)。 本年度の研究途上では光化学系Iの二次電子受容体についても新たな発見があった。従来,二次電子受容体は例外なくフィロキノンPhQだと思われていたが,ラン藻のSpirulina platensisおよび緑藻のChlamydomonas reinhardtiiとChlorella vulgarisの機能分子組成をHPLC分析したところ,二次電子受容体はPhQではなく,極性のずっと高いナフトキノン類だと推定され,抽出ののち高速原子衝撃質量分析(FAB-MS)で計測したところ,長鎖の一ヶ所がヒドロキシル化されたナフトキノンであることが判明した。 以上の結果を基礎に今後は,ほかの多様な酸素発生型光合成生物の光化学系IもChl a'を普遍的な構成分子に用いているか否かの検討,および新規に発見されたナフトキノン誘導体の構造決定などを実施する必要がある。
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