医薬品などの光学活性化合物の合成法として、生体触媒を利用した手法が注目されている。中でも、加水分解酵素の一つであるリパーゼは、基質特異性が広く、高いエナンチオ選択性を示すことから、速度論的光学分割の有力な手段である。しかし、このリパーゼを用いた1級アルコールの光学分割は、不斉中心と反応部が遠くなることから選択性は低下し、今だ選択性向上の確実な方法はつかめていない。本研究では、この改善策として、極低温まで反応温度を下げることを提案し、3-phenyl-2H-azirine-2-methanolの反応において、30℃でE=17であったものが、-40℃でE(エナンチオ選択性の指標)=99まで上昇した。この低温下でのリパーゼ反応は単にE値が向上するだけではなく、選択性と反応温度の物理化学式に従っていることがわかった。この方法は、低温反応のため、反応速度が低下するが、多孔質セラミックスに固定化したリパーゼを用いることにより、回転数が向上し、反応速度の低下が改善された。しかし、基質によっては固定化リパーゼを用いた方が選択性が低下するという結果も存在する。本研究は固定化リパーゼを用いた光学分割における選択性低下の改善を目的とし、担体表面に結合している架橋剤の影響を調査した。その結果、架橋剤の構造により固定化リパーゼの機能が飛躍的に向上された。また、得られた光学活性アジリン類のジアステレオ選択的な化学的変換法も検討し、多種の誘導体が高い光学純度で得られることが分かった。 今後は、このアジリン類の誘導体を合成し、合成的に意味のある化合物(アミノアルコール、アミノ酸)などの新合成法として確立していく予定である。
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