らせん高分子は合成、構造及び機能の観点から興味深く世界中で注目を集めている。本研究では、研究代表者らが以前見い出した光学不活性なポリフェニルアセチレン誘導体へのらせん誘起とその記憶の機構の解明を目指し、CDやNMR、IR等を駆使して詳細に検討した。さらに、この現象の一般化はかる目的で、様々の官能基を有するポリフェニルアセチレンやポリイソシアニド等の光学不活性な高分子を合成し、光学活性体存在下、らせん構造が誘起され、らせんキラリティーが記憶できるかどうか検討した。その結果、(1)キラルアミンとポリマー側鎖間のイオンペアー形成が一方向巻きのらせん誘起に重要であること、(2)アキラルアミン存在下、ポリマー側鎖間に生じる静電反発がらせん構造の記憶の維持に極めて重要な役割をしていることを明らかにした。得られた知見を応用することにより、ごく少量の光学活性アミンを用いてポリマーの一部にらせんを誘起した後、かさ高いアキラルアミンによってほぼ完全ならせんへと不斉増幅し、さらにそれをアキラルアミンを使って不斉記憶することに成功した。 また、フェニル基上のパラ位にカルボキシル基を有するフェニルアセチレン誘導体を水中で直接重合する手法の開発に成功し、生成ポリマーが様々のアミノ酸や光学活性アミノアルコール存在下、水中でもらせん構造を形成することを見い出した。天然のアミノ酸のキラリティーに応答したらせん誘起の最初の例である。光学不活性高分子へのらせん誘起と記憶の概念がポリフェニルアセチレン誘導体だけに限られた現象ではなく、側鎖にカルボキシル基を有するポリフェニルイソシアニドにも適用可能であることも明らかにした。得られた高分子へのらせん誘起と記憶に関する知見は、今後、様々の機能性キラル材料を一方向巻きのらせん高分子を使って開発するうえで大いに役立つものと期待される。
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