研究概要 |
本研究では,高温溶液重縮合過程でオリゴマーの結晶化を誘起し,その後生成したオリゴマー結晶内でトポケミカルに固相重合を行うという新規概念に基づき,一次構造から高次構造までを同時に制御する精密重縮合技術について検討した。以下に成果の詳細を示す。 1.成分分別重縮合:流動パラフィン(LPF)中,p-アセトキシ安息香酸(p-ABA)とm-アセトキシ安息香酸(m-ABA)を所定の比率で仕込み,330℃で静置下6時間重合してポリマー結晶を得た。m-ABAの仕込みモル比率が30mol%までは針状結晶が生成した。得られた結晶はポリ(p-オキシベンゾイル)であり,オリゴマーの相分離過程をともなう溶液重合では成分分別が起きていることが明らかとなった。 2.連鎖配列重縮合: p-ABAとS-アセチル-4-メルカプト安息香酸(AMBA)とを所定比率で仕込み,1と同様に300℃で6時間重合を行った。ランダム共重合では,仕込み組成中のABA単位のモル比が0.6〜0.1の範囲では晶癖の明確でない球状物のみが生成した。これに対して,モノマーとしてp-ABAとAMBAからなる交互,或いは周期連鎖構造を有する2,3量体を合成し,同様の条件で重合を行うと交互及び周期共重合ウィスカーが生成した。エステル交換による連鎖配列のランダム化より速くオリゴマーが析出結晶化し,固相での後重合過程では交換反応が抑制されたためと結論できた。 3.非等モル条件下での重縮合:p-hexyloxybenzoic acid(HOBA)とp-decyl oxybenzoic acid(DOBA)を用い,LPF中に所定量のp-ABAとともに,窒素雰囲気中320℃で静置下6時間重合した。HOBAの仕込みモル比が0.6以下で結晶が生成し,その分子量は4.08×10^3以上と高分子量であった。DOBAを共存させた重合では,DOBAの仕込みモル比が0.3以下でしか結晶の析出は認められなかったが,分子量は2.78×10^4以上と高く,同じモル比で比較するとHOBAの場合よりDOBAの方が高分子量体が生成した。封鎖末端を持つオリゴマーが析出し,結晶化と同時にエステル交換反応が起こって末端基が排除され,分子量が増大することが分かった。 4.重合結晶化を利用した芳香族ポリエステルとポリアミドの同時作り分け:p-ABAとp-アセトアミド安息香酸の共重合を芳香族系貧溶媒中で行い,重合過程でのオリゴマーの結晶化を利用したポリ(p-オキシベンゾイル)(POB)とポリ(p-アミノベンゾイル)(PAB)の同時作り分けを検討した。p-ABAのモル仕込み比が50〜30mol%では,針状結晶と板状結晶がともに生成した。2種の結晶はその組成が大きく異なり,板状結晶はp-アミノベンゾイル成分(アミド成分)を,針状結晶はp-オキシベンゾイル成分(エステル成分)を多く含んでいた。エステル成分を多く含むオリゴマーに比べアミド成分を多く含むオリゴマーは水素結合による強い凝集力のために低い重合度で析出し、その後、両オリゴマーの凝集力が大きく異なるために、それぞれの結晶の作り分けが起こると結論した。
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