表面に適当な開始基を化学結合で導入した固体(シリコン基板、シリカ微粒子、金属微粒子など)に原子移動ラジカル重合(ATRP)や可逆的付加・開裂連鎖移動(RAFT)ラジカル重合などのリビングラジカル重合法(LRP)を適用し、固体表面に0.7chams/nm^2にも達する高密度で長さおよび化学構造の制御された各種のモノマーからなるグラフト鎖(ポリマーブラシ)を形成する技術を確立した。 これら高密度グラフト膜の特性を膨潤状態および乾燥状態で調べた結果、キャスト法による(通常の)高分子薄膜とは著しく異なる性質を有する新規な分子集合組織であることが判明した。例えば、良溶媒中において高密度グラフト膜中の分子鎖は膜面に垂直な方向に高度に伸張し、伸び切り鎖長の80〜90%にも達する膜厚を与える。また、膨潤膜の圧縮弾性率はグラフト鎖長とともに増大する非スケーリング性を示す。溶融状態における乾燥膜の圧縮弾性率も等価なキャスト膜に比して約50%高い。また、乾燥膜のガラス転移温度T_gは等価なキャスト膜に比べて、低分子量領域(膜厚で約50nm以下)および高分子量領域で特徴的な差異を示した。特に、実験データは分子量が無限に大きい極限においてもポリメタクリル酸メチル(PMMA)高密度グラフト膜のT_gがバルクPMMAのそれに比して約8K高いことを示しており、表面グラフトという界面効果が膜のバルクな性質に及ぶことが判明した。
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