近年、自発的な細胞死による新たな機能獲得機構の存在が明らかになり、植物においては、維管束の管状要素の分化、花の形成過程に見られる雄性あるいは雌性器官の退化に伴う細胞死、根冠細胞の離脱、病原菌によって引き起こされる過敏感細胞死、花弁や葉の老化等などが、プログラムされた細胞死であることが、明らかとなってきた。これらは発生分化、環境適応の過程で重要であることから、原因となる遺伝子の単離が望まれる。本研究では、植物のストレス応答をプログラム細胞死の面から解析する目的で、関連遺伝子の単離およびストレス耐性獲得機構との関係について解析を進めている。 本研究では、イネの根における通気組織形成は根端部の細胞分裂、それに引き続く細胞伸長によって成熟した後におこるプログラムされた細胞死の現象を明らかにした。肥大期の後、液胞の酸性化、第1番の細胞死が皮層中央部の細胞に起きる。電子顕微鏡による解析から、形態的に見出される第一の細胞内変化は液胞の崩壊であることを明らかにした。すなわち、この液胞の崩壊を引き起こす因子こそが「細胞死のシグナル」であると考えられる。 そこで、ディファレンシャルディスプレイ法によりイネの種子根において破生通気腔が形成される過程で発現量が変化する遺伝子の単離を行った。これらの中から、液胞が発達し、第1番目の細胞死を開始する部位で強い発現を示す機能の未知な遺伝子について、いくつかのトランスジェニック植物を育成した。また、酵母を用いた同様の因子の単離を試みた。
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