1.ミトコンドリア遺伝子の解析 Aegilops crassa細胞質を持つコムギ品種「農林26号」((c)-N26)(日長感応性細胞質雄性不稔(PCMS)-長日条件下において雄ずいの雌ずい化(pistillody)を示す)からミトコンドリアDNAを抽出し、λFIXIIベクターを用いてライブラリーを作成した。また、「Chinese Spring」の7B染色体長腕に座乗するpistillody抑制遺伝子Rfd1を欠失させた2系統、ダイテロソミック7BS(CSdt7BS)系統(正常雄ずい)および(c)-CSdt7BS系統(日長条件によらずpistillodyを示す)、の頴花分化期由来RNAを単離した。 2.稔性回復遺伝子(Rfd1)の解析 Rfd1遺伝子はCS 7BL染色体上のFL0.45-0.63(動原体から距離割合い)の位置に座乗する。CS7BL染色体欠失系統を用いて、Rfd1遺伝子領域を含まない(c)-CS7BL0.45系統およびRfd1領域を持つ(c)-CS7BL0.63系統を作成した。 3.pistillodyに関与する遺伝子の解析 CSdt7BS系統(正常雄ずい)および(c)-CSdt7BS系統(pistillody)の頴花分化期由来RNAからcDNAを合成した。 4.MADSボックス遺伝子の解析 頴花分化期の幼穂由来cDNAライブラリーからシロイヌナズナの花のホメオティック遺伝子AGAMOUSに相同性の高いWAG(Wheat AGAMOUS)を単離した。ノーザン分析の結果、CSdt7BS系統と(c)-CSdt7BS系統の雌ずいおよび(c)-CSdt7BS系統の雌ずい化した雄ずいには、分子量の異なる2種類の転写産物が見られ、分子量の大きい方の転写産物が雌ずいおよび雌ずい化した雄ずいで特異的であった。また、ゲノミックサザン分析の結果、WAG遺伝子には1A、1B、1D染色体に座乗する3つの同祖遺伝子が存在することが示された。以上の結果から、WAG同祖遺伝子の一つが雌ずい特異的発現を示し、雌ずいの形成およびpistillodyに関与すると考えられる。
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