研究概要 |
本年度の研究実績は論文3報と学会講演8報である。論文では,水稲の登熟および発芽・初期生長に伴う貯蔵物質の動態を,とくにタンパク顆粒とデンプン粒について詳細に検討した。これらは,高温登熟に伴う貯蔵物質の蓄積構造の変化を検出する基礎知見となるものである。また,米の食味評価の基本的知見となる炊飯に伴うデンプン粒の糊化過程を,急速凍結・真空凍結乾燥法による試料調製と走査電子顕微鏡観察により初めて明らかにした。講演では,水稲の登熟期における高温条件が貯蔵物質の蓄積量と蓄積形態,とくにアミロプラストの形態と増殖特性に及ぼす影響について,デンプンを構成するアミロペクチンの側鎖長分布と糊化特性に及ぼす影響について,転流・転送系構造である子房の背部維管束および珠心表皮の構造変化・退化過程に及ぼす影響などについて初めて解析した。また,高温登熟によって形成された多様な屑米および不完全登熟米を供試して,それらの胚乳構造と貯蔵物質とくにアミロプラストの形態について詳細な解析を行い,水稲の登熟期における高温条件の影響について多くの新知見を明らかにした。とくに,アミロプラストの多様な形態的異常,増殖様式の変化,デンプン粒の分解像の確認などは,今後の本研究の進展に有益な示唆を与えるものと考えられる。さらに,不完全登熟米でみられる胚乳の白色不透明部と胚乳が白色不透明なモチおよび低アミロース品種・系統におけるアミロプラストの形態的特徴を比較検討し,両者の相違点を明らかにした。
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