イネで耐乾性程度の異なる品種の幼植物を材料に、前年度にトウモロコシで確立した実験系を用いて種子根の先端から5cmまでの部位について、皮層細胞長の推移を調査した。すなわち、水分のムラの小さいバーミキュライト培地で幼植物を栽培し、その種子根を根の先端から順次2mmまたは5mmのセグメントに分けて縦断切片を作成し、皮層中央部の細胞の長さを蛍光顕微鏡と画像解析装置の組合せを用いて測定した。細胞長は、各品種ともに根の先端から基部に向かう過程で振幅を示したが、伸長帯における細胞長の増加の様相に品種間で差異が認められ、水稲品種に比べて陸稲品種のほうがより早く(より先端に近い位置で)最大長に達していた。また、培地の水分率が低い条件下では、耐乾性の弱い品種は細胞伸長が抑制されていたのに対して、耐乾性の強い品種では、むしろ伸長帯における細胞長の増加が著しくなる傾向が認められた。これらの結果から、イネの根の伸長や、水分条件に対する根伸長量の反応に見られる品種間差異には、伸長帯における細胞伸長の様相が密接に関与しているものと推察された。こうした細胞伸長の動態の差異は、細胞壁の伸展性の品種間差異で説明できる可能性がある。現在、各品種の根の部位別に伸展性を調査継続中である。なお、本年度の研究の遂行に当たっては、名古屋市立大学の谷本英一教授とスロバキア国コメニウス大学のA.Lux助教授、スロバキア国科学院植物学研究所のT.Jesko博士の研究協力をえた。
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