著者ら(大槻・巽199)は、^<13>CO_2の供与実験を行い、イネよりもトウモロコシの方が呼吸基質として新規同化炭素に依存する割合が高く、逆に貯蔵炭素(直前の明期よりも以前に同化された炭素)への依存割合が低いことを示唆した。このことは、作物種間で夜間の呼吸に利用される新規同化炭素の割合が同じではなく、また個体の炭素経済や成長効率が異なっている可能性を示している。しかしこうした視点から調べた研究は見あたらない。 本研究ではC_4およびC_3作物をふくむ5種類の作物(ハトムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、コムギ)を用いて、呼吸に利用される新規同化炭素の動態を調べた。水耕栽培した5種の幼植物に、^<13>CO_2を定濃度・定比活性の条件で明期中の10時間以上にわたって植物体に同化させた。その直後の夜間から翌日の夜間までの36時間、根および地上部から放出される呼吸中の^<13>C標識炭素の割合(RSA)、および植物体各器官に含有される標識炭素の動態を経時的に追跡した。 同化直後の暗期中におけるインタクト根のRSAは、トウモロコシとハトムギにおいて67〜69%であり、イネ、コムギ、オオムギにおいて29〜50%であった。つまりトウモロコシとハトムギでは根の呼吸に利用される炭素の約7割を新規同化炭素に依存しているが示され、イネ、コムギ、オオムギと比べて依存度が高いことが明らかとなった。この傾向は切断根と地上部の呼吸についても同様であった。 以上の結果は、作物種の違い、特にC_4作物とC_3作物の炭素経済や代謝活性の違いを反映しているものと推察された。また、植物体中のRSAは抽出葉を除いた成熟葉、茎、根でいずれもC_4作物がC_3作物を大きく上回る傾向にあった。このことから、呼吸基質の新規同化炭素への依存度がC_4作物において高かった理由は、C_4作物の高い光合成速度のためであると推定した。しかし、今後さらに貯蔵炭素プールの大きさや代謝活性について検討する必要がある。
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