研究概要 |
安定同位体の13Cと15Nを用いて,水稲における物質動態を解析した。最高分げつ期の少し前の時期に,圃場で生育した水稲の主茎および第4葉からの分げつに15Nで標識した尿素を噴霧し,10日後の転流を調べた。品種は黄金錦(日本型,少げつ性)とIR36(インド型,多げつ性)を用い,窒素追肥量が異なる区(低N区と高N区)を設けた。茎数の増加は低N区よりも高N区でまさった。有効茎数は黄金錦の高N区で顕著に増加したが,IR36では有効茎数の増加が認められなかった。両品種ともに主茎に供与した場合は各葉位の1次分げつへ,第4葉分げつに供与した場合はその分げつの2次分げつへ多く分配されたが,主茎への転流は少なかった。このようなNの転流は,とくに低N区において活発であった。このことは低N条件において,作物体内のNの再転流が活発となるためであると考えられた。 次に中生新千本(日本型,多げつ性)と密陽23号(日印交雑型,少げつ性)を加え,最高分げつ期直前の個体全体に13C標識二酸化炭素ガスと15N標識尿素を供与し,53日後の出穂期に転流を調べた。無効分げつに取り込まれた15Nの有効分げつへの再分配の程度は低追肥区で高く,黄金錦では約7%,中生新千本と密陽23号では約20%,IR36では約25%と計算された。高追肥区では無効分げつへの残存量が多く,そのため再分配が低下し,とくに日本型品種で低かった。13Cの分配の傾向は15Nとほぼ同様であったが,Nの方がより効率よく有効茎に回収される傾向にあった。以上の結果から,水稲において,無効茎から有効茎へのCとNの再転流はかなり多く,とくに低N条件下において多げつ性の品種の場合,有効茎の成長に無視できない役割を果たしていると推定された。
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