研究概要 |
本年度の研究成果として以下の3点を得た. 1.都市農村混合空間における農地が,街路通行者の開放性の印象にもたらす影響を解明した.具体的には,被験者に複数の写真を連続的に提示し,開放性の印象を得点付けさせる心理評価実験を行い,農地規模,農地市街地間の混合形態と開放性との関係を明らかにした.結果,農地の開放性の印象は,農地規模が大きく,農地周辺の市街地が高密度であるほど増加することが明らかとなった.これは,狭小な農地であっても高密な市街地においては,十分に開放性発現に資する存在となることを示唆する.次年度以降は,移動しながらの景観知覚を対象として,開放性発現に資するより具体的,一般的な市街地と農地との混合形態を解明する予定である. 2.環境保全上の様々な機能を発現することが期待される谷津を対象とし,谷津の景観構造を記述できる手法の解明を行った.具体的には,数値標高モデル(DEM)を基礎データとし,GISを用いて傾斜度や谷幅などを計測した結果から谷津を定量的に記述した.さらに,記述された谷津の有する環境保全機能の1つとして,生物相保全機能をとりあげ,谷津のアンブレラ種とされるサシバの棲息可能性について評価を行った.結果,サシバの棲息適地が広域的に抽出できた.次年度以降は,植生図や土地利用図などの空間情報の重ね合わせを行い,都市近郊部のより一般的な景観構造の解析を行う予定である. 3.わが国都市近郊部に存在する里山における土地利用の時系列的変遷を明らかにし,今後の里山保全のあり方について,歴史的,文化的な観点から考察した.上記2点の課題の解明とともに,歴史的,文化的な視点から緑地が論じられたことで,今後の都市農村混合空間のあり方について,機能の発現に偏らない視点が提示された.
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