研究概要 |
ヒアシンス(Hyacinthus orientalis L.cv.Delft Blue)の球根内葉原基由来のシュートを,8週間の5℃暗黒処理後,25℃連続照明下で培養すると,処理後4週間で70%以上の外植体が球根を形成したが,無低温処理区では20%以下であった.次に,ABAを添加すると,無低温処理区であっても,10週目以降に球根形成が始まり,1mgl^<-1>処理で球根形成率が75%と最も高くなった.また,ABA生合成阻害剤であるフルリドンを添加すると,低温処理区であっても球根形成率は0〜45%と非常に低くなった.さらに低温処理区においてのみ,処理直後から4週目にかけて内生ABAが増加しており,球根形成率が増加する時期と一致していた.以上より,球根形成は低温によって誘導され,ABAの制御下にあることが明らかになった.本実験により,(1)低温処理または(2)無低温処理下でのABA処理による球根形成条件および(1)無低温処理または(2)低温処理後のフルリドン処理による非球根形成条件を確立することができた. 次に,外植体を5℃暗黒下または25℃連続照明下で8週間培養後,全RNAを抽出し,cDNAを合成した.得られたcDNAを鋳型として,20種類のランダムプライマーを用いたPCR反応を行い,PCR増幅産物のディファレンシャルディスプレイを試みた.低温処理区で特異的に発現する断片が8プライマーでみられた.一方,無低温処理区に比べ,低温処理区で発現が弱くなる断片が6プライマーでみられた.これらのPCR増幅断片は,低温処理によって消長する遺伝子の候補断片と考えられる.低温処理直後の外植体に形態変化は生じていないが,特異的な発現遺伝子のPCR増幅断片は認められたことから,低温処理による遺伝子発現調節は球根形成の非常に初期の段階,もしくは前段階で既に開始されていることが考えられる.
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