研究概要 |
ヒアシンス(Hyacinthus orientalis L.cv.Delft Blue)を供試し,前年度までに確立した球根形成制御条件のうちの(1)低温処理および(2)無低温処理下でのABA処理によって誘導される球根形成遺伝子の探索をディファレンシャルディスプレイ法により行った.低温およびABA処理を行った後,球根形成が観察できる以前の外植体にPCR増幅断片の多型がみられ,遺伝子の発現は処理開始後早くから起こっていることが示唆された.これらのPCR増幅断片は,低温処理およびABA処理によって消長する遺伝子の候補断片と考えられる.また,低温処理により誘導された特異的なPCR増幅断片のうち,6断片がABA処理区でも特異的に発現し,2断片の発現が両処理区で共通して抑制されていた.両処理により共通して発現したPCR増幅断片は,球根形成に関わる遺伝子断片である可能性が考えられた. そこで,低温処理により誘導された18遺伝子断片の塩基配列を決定するとともに,得られた遺伝子断片と他の植物ですでに単離されている既知遺伝子との相同性検索を行った.これらの遺伝子断片のうち8断片は17種類の既知遺伝子と80%以上の相同性を示した.低温およびABAにより共通して誘導された遺伝子断片は,Arabidopsis thalianaやOriza sativaのゲノムDNAと相同性を示した.また,低温誘導性の3断片は,サツマイモのデンプン合成に関わる遺伝子の配列と部分的な一致を示した.既知遺伝子との相同性が低かった10断片は新規な遺伝子である可能性が考えられた. 球根形成が低温により誘導されること,ABAは多くの植物において休眠導入を司る植物ホルモンであることに加え,低温およびABAの両処理により共通して発現する遺伝子断片が見いだされたことから,球根植物における休眠導入と球根形成開始とは同一の現象であるという考え方を分子レベルにおいても支持していると考えられる.
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