ハダニでは、細胞質不和合性を発現するWolbachiaと、生殖に影響を与えないWolbachiaが知られている。Wolbachiaの系統解析は、16S rDNAやftsZあるいはwsp領域の塩基配列に基づいて行われている。中でもwsp領域は変異性が高いため、Wolbachiaの系統分類を行うのに適している。そこで本研究では、ハダニに感染しているWolbachiaのwsp領域の塩基配列を決定し、系統解析を行った。 日本産ハダニ亜科9属37種349個体群についてWolbachiaの存在を調査したところ、4属7種54個体群がWolbachiaに感染していた。このうち、4属7種20個体群を用いて、感染しているWolbachiaの系統解析を行った。カンザワハダニの志戸子個体群からはBグループに属する2種類のWolbachiaが見つかり、他の19個体群は1種類のWolbachiaに感染していた。また、細胞質不和合性を誘起するWolbachiaと生殖に影響を与えないWolbachiaが単系統を形成しており、系統関係はWolbachiaが宿主に及ぼす影響を反映していないと考えられた。つまり、複数の種や異なる地域系統に同一配列を持つWolbachiaが感染しており、これらの間で水平伝搬が起こったと推定された。一方、不和合性を誘起するWolbachiaに感染していた1種5個体群は、塩基配列の違いにより、2つのグループに分けられた。そこで、これらの配列を用いて、2つのグループを区別するプライマーを設計した。さらに、ヒトスジシマカの培養細胞株を用いて、ハダニのWolbachiaを人工培養することに成功したので、現在、ショウジョウバエの卵への微量注入法による感染・定着状況を検討している。
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