昆虫AChEのアミノ酸高度保存領域に対応するPCRプライマーを使い、これまでにコガタアカイエカ、イエバエ、イネドロオイムシ、モモアカアブラムシ及びナミハダニのAChE遺伝子をクローニングし、ダイレクトシークエンスによってそのDNA配列を明らかにした。それぞれの害虫で感受性と感受性低下系統のAChEアミノ酸配列を比較したところ、イエバエとナミハダニではアミノ酸置換が認められ、その他4種では両者にアミノ酸置換は見付からなかった。イエバエのAChE遺伝子をバキュロウィルスに組み込み培養細胞で発現させると、感受性及び感受性低下のAChEが得られ、薬剤感受性低下が蛋白構造中のアミノ酸置換に由来することが証明された。ナミハダニの感受性低下系統の一部にはF439Cのアミノ酸置換が存在し、これが活性中心部分を取り巻く芳香族アミノ酸の一つであるため、この置換には意味が有る可能性もある。現在、この変異型AChE遺伝子の発現を試みている。同様に、コガタアカイエカのAChE遺伝子を発現させると、コードするアミノ酸配列が感受性、抵抗性系統に違いが認められないことから、当然用いた遺伝子の由来に関係なく感受性AChEが得られた。 また、コガタアカイエカの抵抗性因子の連鎖群解析を行った結果、AChE遺伝子と感受性低下因子とは別の染色体に存在することが明らかになった。 以上の結果をまとめると、殆どの昆虫でAChEの薬剤感受性低下の要因はAChE構造遺伝子にはなく、蛋白が高次構造を形成する間に働く修飾要因が感受性低下を決定していると結論できる。
|