研究概要 |
我々は、α-グルコシダーゼが異なる一次構造・基質認識を有する2つのファミリー(I型とII型)に分類できることを見い出した。糖質酵素では例のない"収斂進化"である。さらに、I型ファミリーの構造はα-アミラーゼなどと類似し、"発散進化"と捉えられる。II型酵素にも"発散進化"が見られ、α-キシラナーゼとα-グルカンリアーゼの構造と類似する。これらの事実は、α-グルコシダーゼファミリーの構造・機能に関する微視的な解析が、グリコシダーゼに適用できることを暗示している。本課題の目的は、ファミリー間の基質認識・機作の相違をアミノ酸レベルから分子解剖し、得た知見を相同のグリコシダーゼに発展させることである。本年度は以下に示す研究成果が得られた。 (1)I型ファミリー酵素の触媒基推定にα-アミラーゼの三次構造情報が使用できる(2残基のAspと1残基のGluが触媒アミノ酸)。異種宿主発現が可能なミツバチ酵素を用いてAsp→Asn、Glu→Glnの置換を行った。組換え体の粗抽出液には活性が検出されなかった。現在、3種の変異酵素の精製を行っている。(2)II型ファミリーのうちで、発現が可能な分裂酵母の酵素を用いて、触媒アミノ酸を検討した。既に、2残基の酸性アミノ酸が触媒基と推定されている。本ファミリー(17種)のアミノ酸配列中に保存されている8残基の酸性アミノ酸を置換した。精製した組換え酵素の活性からAsp-481とAsp-647が触媒基であると判断された。Asp-647はプロトン供与体であり、II型酵素で初めて明らかにされた知見である。(3)同位体効果測定のための基質としてフェニルα-マルトトリオシド-1,1",1′′′^2-H_3の合成に成功した。α-グルコシダーゼとグルコアミラーゼを作用させると、同位体効果が観察され、反応の遷移状態にオキソカルベニウム中間体の存在が示唆された。
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