研究概要 |
(1)ニワトリ胚の雌マイナス雄サブトラクションcDNAライブラリーからW染色体上の新規遺伝子PKCI-WとZ染色体上のPKCI-Z遺伝子のcDNAクローンを取得した。PKCI-WとPKCI-Zはアミノ酸配列レベルで約60%の相同性を示した。両遺伝子とも生殖腺分化前の雌胚の生殖隆起や神経系組織で高発現した。PKCI-Zは哺乳類のHINT(histidine triad nucleotide-binding protein)のオルソログであるが、PKCI-WはHINTに特徴的なHIT(histidine triad)モチーフを欠く、N末側に特異的なLeu,Argに富む領域を持つ、HINTの2量体形成に関与するHITモチーフの両側の配列がよく保存されているなどの特徴を示し、PKCI-Zとは異なる機能を持つことが推定された。PKCI-W, PKCI-ZをグルタチオンS-トランスフェラーゼやマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として大腸菌で発現、精製した。PKCI-Zは哺乳類と同様にアデノシンに対する高親和性とAMPアミデート加水分解活性を示したが、PKCI-Wはこれらの活性を示さなかった。また、PKCI-Zのこれらの活性はPKCI-Wとヘテロ2量体を形成することによりドミナントネガテイヴ型に阻害された。これらの結果はPKCI-Wが雌の性決定に関与するという仮説を支持した。(2)雌ニワトリ染色体標本にレーザー顕微照射とランダムPCRを適用してW染色体特異的ゲノムライブラリーを作製し、spindlin遺伝子(SPIN-W)ならびにSspIファミリー反復配列のクローンを取得した。また、Z染色体上にSPIN-Wの関連遺伝子SPIN-Zを見いだした。両遺伝子の3'-非翻訳領域配列の違いを利用してノーザンブロット解析を行い、SPIN-Zは組織非特異的に、SPIN-Wは卵巣で高発現することを示した。SspI-ファミリーは508bp単位が11,300回縦列反復したもので、W染色体短腕上のユークロマチン/ヘテロクロマチン境界域に局在した。反復単位中に120bpのポリプリン/ポリピリミジン配列が存在するためか、反復配列でありながら核内で分散したクロマチンを形成した。SspI-ファミリー配列はin situハイブリダイゼーションでW染色体上の遺伝子マッピングを行う際のよい位置マーカーとなった。(3)雌卵母細胞のcDNAライブラリーからZ染色体上のMHM regionのクローンを取得した。MHM regionからは雌でのみnon-coding RNAが転写され核内の転写部位近傍に集積した。この集積部位が精巣分化に必須と考えられるDMRT1遺伝子部位とも接しているため、雌におけるDMRT1遺伝子の転写不活性化にこのnon-coding RNAが関与するのではないかと推定した。
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