これまでに開発済みであったThermus thermophilus HB27株用の発現ベクターpTEV131を用いて、超好熱菌Pyrococcus horikoshii OT3株の8遺伝子の発現を試みた。8遺伝子のうち2つは大腸菌ではタンパク質の発現が全く、あるいは極めて低レベルでしか行われていなかったものである。その結果、DNA polymerase遺伝子を除く7遺伝子のHB27株でのクローニングに成功した。また、α-mannosidaseを除く6遺伝子がHB27株宿主内で発現していることを確認した。しかしながら、それらの発現レベルは、大腸菌での発現レベルと比べて低いものであった。 そこで、pTEV131ベクターのプロモーターの改良に着手することとした。pTEV131のプロモーターを転写活性が2倍程度強力なプロモーター2種に置換したベクター2種を作製し、それらを用いて上記7遺伝子のHB27株での発現レベルを検討した。その結果、α-mannosidaseの発現はやはり認められなかったが、他の6遺伝子の発現(酵素活性)はすべて2倍程度まで増大した。 プロモーターの改良が外来遺伝子の高発現に効果的であることが明らかとなったので、pTEV131のプロモーターを、T.thermophilusで最も高発現している遺伝子の一つとして知られているS-layerタンパク遺伝子のプロモーター(PSlp)に置き変えた発現ベクター(pTEV-PSlp)も作製した。このベクターを用いて上記遺伝子の発現を試みたところ、酵素活性のレベルが当初の4倍程度にまで増大した。 P.horikoshii OT3株の機能未知遺伝子の機能解析の一環として、ゲノム情報より、OT3株で真核生物型のリジン生合成系遺伝子ではないかと推定された遺伝子をpTEV131に導入し、HB27株の該当すると予想された遺伝子の破壊株(リジン要求性変異株)に導入したが、HB27株の変異は相補されなかった。
|