ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の役割を検討する目的で、その反応産物PIP3の結合タンパク質の性質、とくにSwap-70と呼ばれるタンパク質について詳しく検討した。Swap-70は当初、B細胞特異的レコンビナーゼとして同定されていたが、B細胞以外では主に細胞質に存在し、レコンビナーゼ以外の役割を果たしていると思われた。検討の結果、Swap-70は増殖因子刺激に伴ってラッフル膜に移行し、これに必要なGタンパク質Racを活性化することが判明した。In vitroの実験結果もSwap-70はRacを活性化するいわゆるグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であることを示唆していた。また、このGEF活性にはPIP3が必要で、Swap-70はPI3KからRacへのシグナルを仲介する因子であることがわかった。さらにSwap-70のノックアウトマウスから培養した腎細胞についてEGFによるラッフリングを調べた結果、その効率が有意に低下していることが認められ、Swap-70の生体内での重要性が示唆された。 Swap-70はGEF活性をもつDH領域とPIP3と結合するPH領域を有する。この両者は結合し、この結合によってGEF活性が低下し、PIP3によってこの結合が阻害されることから、PH領域はDH領域の活性を負に制御する領域であることが判明した。実際に、この結合ができない変異株やPH領域をもたない変異株ではGEF活性が恒常的に上昇し、この仮説が支持された。
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