イネ根圏に生息するKlebsiella oxytoca、Azospirillum lipoferumなどの窒素固定菌を遺伝子工学的に改良した菌株は、アンモニアなどの窒素源の存在下でも窒素固定能を発現するので、化学肥料を節約する効果が期待される。一方、野生型窒素固定菌は、窒素肥料の存在下では窒素固定酵素系の遺伝子の発現が抑制されるので、肥料と併用しても効果を期待できないが、窒素固定を行うためのエネルギーの無駄使いがないので、自然界における生存力が窒素固定能改良株よりも勝っている。このような理由により、窒素固定能の改良株をイネに接種しても、数週間程度で消滅することが問題となっている。本研究では、窒素固定能改良株にバクテリオシンの生産性を付与することにより、自然状態の土壌中で野生株よりも生存力の強い窒素固定能改良株を作成することを目的とし、本年度の研究では、Klebsiella属、Azospirillum属並びにSphingomonas属の野生型窒素固定菌に対する抗菌物質を生産する菌株を土壌分離菌からスクリーニングした。イネ科雑草の根圏土壌を主とする78の土壌サンプルから、184株の細菌を分離し、野生型の窒素固定菌Klebsiella属2株、Azospirillum属2株、Sphingomonas属1株に対する抗菌物質の生産性を調べた結果、グラム陰性菌5株とグラム陽性菌1株が、抗菌物質を生産していた。この内の1株グラム陰性菌N-7-Bは窒素固定能を持たず、その生産する抗菌物質はAzospirillumの生育を阻止した。この物質は低分子であり、その吸収スペクトルなどから既知の抗生物質ピオシアニンであると判断された。別の1株グラム陰性菌N-F-1は、窒素固定能とKlebsiellaに対する抗菌性を示し、その抗菌物質は硫安塩析によって沈殿するので、バクテリオシンの可能性がある。またグラム陰性菌N-A-1は、強い窒素固定能とKlebsiellaに対する抗菌性を示した。これらの抗菌物質についてさらに検討を続ける予定である。
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