イネ根圏に生息する窒素固定菌を遺伝子工学的に改良し、アンモニアなどの窒素源の存在下でも窒素固定能を発現させることは、試験管中では十分に達成されている。しかし、改良菌株は窒素固定にともなうエネルギーの負担が大きく、イネに接種しても数週間程度で消滅してしまうことが問題である。一方、野生型窒素固定菌は、窒素肥料の存在下では窒素固定酵素系の遺伝子の発現が抑制されているので、化学肥料と併用した場合に効果を期待できない。本研究では、窒素固定能が強く、かつバクテリオシンなど抗菌物質の生産能をもつ菌株をあらたにスクリーニングし、これを改良することによって、自然状態の土壌中で野生株よりも生存力の強い窒素固定能改良株を得ることを目的として研究を行っている。 本年度の研究では、Klebsiella属、Azospirillum属、Sphingomonas属、herbaspirillum属など既知の窒素固定菌の5倍程度の窒素固定能をもつ菌株(Br-1)をイネの根圏から単離することに成功した。顕微鏡観察、生化学的テスト、16SrRNA遺伝子の塩基配列決定などによって、本菌株は、Paenibacillus属に属し、P.azotofixansともっとも近縁であることが判明した。しかし、52種の生化学的テスト中で5種の結果が異なり、16S rRNAのホモロジーが98パーセントであることから、本菌株はPaenibacillus属の新種であると結論した。また、イネ科の雑草の根圏から、窒素固定能と抗菌物質生産能を併せ持つ菌株(E-1030)を分離し、同定の結果にPantoea dispersaに属すると判定した。次年度の研究ではこれらの菌株を改良し、イネに接種して窒素肥料節約の実用的な効果を判定する予定である。
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