研究概要 |
イネの根圏において空中窒素(N_2)を固定する菌株を遺伝的に改良し、かっ生態学的な生存力を強化することを最終目標として、イネ科植物の根圏から新たな窒素固定菌のスクリーニングをおこなった。多数の植物根および付着土壌から、無窒素培地に生育し、窒素固定酵素の活性としてアセチレン還元能を示す菌株を探索した結果、グラム陰性通性嫌気性の桿菌を4株と、グラム陰性胞子形成運動性通性嫌気性の桿菌を2株取得した。API20システムによる同定の結果、前者のうち3株は既知の窒素固定菌Klebsiella pneumoniaeと一致し、残り1株はPantoea sp.に属すると判定された。後者の2株は、API20とAPI50による生理学的テストと16SrDNAの配列決定の結果、Paenibacillus sp.に属することが判明し、rDNA配列のホモロジーが既知菌株にたいして97%あるいは96%であったので新種と判断し、それぞれPaenibacillus fujiensis sp.nov.Br1、Paenibacillus abekawaensis sp.nov.MG1と命名してデータバンクに登録し、Br1株の配列Accession No.AB092351,Taxonomy ID:208550と、MG1株の配列Accession No.AB119649,Taxonomy ID:244733を得た。 P.fujiensis Br1株の窒素固定能(アセチレン還元活性)は、既知のKlebsiella、Azospirillum、Herbaspirillumに属する諸菌株に比べて7〜15倍の強さを示した。無窒素培地に無菌的に栽培したイネにこれらの窒素固定菌を接種し、草丈と乾燥重量にあたえる効果を調べた結果、Br1株は、t検定において最高クラスに属し、草丈においては、既知の標準株Klebsiella pneumoniae M5alとAzospirillum lipoferum COC8よりも優れ、乾燥重量においてはM5alと同等であり、COC8よりも優れていた。このように、窒素固定菌として従来の既知菌株よりも優れた菌株を取得することができた。
|