本研究では、小腸上皮細胞層における生体異物の透過性制御機構を、異物排出と異物処理に関与するトランスポーターの視点から検討することとした。トランスポーターとしては、異物排出に関わるトランスポーターであるP-glycoprotein(P-gp)と各種細胞毒性に対して防御的に働くと言われているタウリンの輸送に関わるタウリントランスポーター(Tau-TP)に着目し、その腸管上皮細胞における機能の解析、調節機構、調節因子(食品因子等)を培養細胞レベルで検討した。まず、P-gpやTau-TPの活性発現を見るのに最も適した細胞としてヒト腸管上皮細胞株Caco-2の培養系を構築し、それらの輸送活性を測定する手法について確立した。次いで、実際にP-gpやTau-TPの活性が生体異物や食品成分によって受ける影響について検討した。異物に対するP-gpの応答性を検討したところ、内分泌攪乱作用が指摘されているトリブチルスズ(TBT)によってP-gpの発現が上昇すること、それには転写レベルでの発現亢進が関わっていることを明らかにした。TAUTの活性は、浸透圧ストレスやサイトカイン刺激によって顕著に上昇するが、ダイオキシン、TBTなどの化学物質による有意な変化は認められなかった。一方、P-gpを長期的あるいは短期的に活性化または阻害する食品成分を動植物食品素材の抽出物中に検索した結果、短期的効果については、ニガウリなど数種の野菜抽出液中にP-gpの活性を抑制する活性を見出した。精製したその活性成分を同定し、現在その作用機構や構造相関について検討している。また、各種ストレスに応答して細胞内へのタウリン取り込みを活性化するTau-TPは、ゴマ抽出物によって活性が抑制されたが、その阻害因子はリゾレシチンであった。この作用機構についても明らかにした。
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