研究概要 |
循環型工業社会の構築・維持のための工業源材料として、自然の循環系に組み込まれているバイオマスの一つであるセルロースを高度に利用することが期待されている。このためには、セルロースの分子特性の解明が不可欠である。地球上でセルロースは主に植物界、モネラ界(酢酸菌)、動物界(ホヤ類)で生産されている。これら由来の異なるセルロースを比較対照しながら、セルロースの分子特性と物性の関連、分子特性と溶液及び固体における秩序性並びに溶解性の関連及びセルロースの新しい利用法について研究した。 セルロース試料として、針葉樹溶解パルプ(DP)、バクテリアセルロース(BC)、綿リンター(CC)及びマボヤ)由来のセルロース(ツニシン、TN)を用いた。8%LiCl/DMAc溶媒系へ植物由来のセルロースであるDP、CCは溶解し、無色透明の等方性溶液となる。BCは濃度の低い領域では等方性溶液になるが、8wt%程度より高濃度では非等方性溶液(液晶)となり複屈折を示す。TNは全く溶解しない。このようにセルロースの由来によって、この溶媒への溶解性は大きく異なることが明らかにされた。 光散乱測定から求めた重量平均分子量はDP,CC,BCそれぞれ98.2x10^4,170x10^4,192x10^4であった。零せん断粘度は低濃度領域ではいずれの系でも濃度の1乗に比例する。一方、高濃度領域では、DP及びCC系では濃度の4乗に、BC系では濃度の3乗に比例して増加する。この粘度の濃度依存性の違いは、セルロース分子の分子特性の違いの反映でもある。DP及びCC分子は溶液中で比較的柔らかい屈曲性高分子として、BC分子はどちらかと言えば剛直な棒状分子として挙動していることになる。以上の結果は、これら同じセルロースといわれる物質でも、その由来によって分子特性に何らかの違いがあることを示唆する。
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