研究概要 |
セルロースは地球上で最も大量に生産されるバイオマスの一つであり、循環型社会の構築及び維持のため、再生可能な資源であるセルロースを高度に利用するためには、その分子特性の解明が不可欠である。地球上でセルロースは植物界、モネラ界(酢酸菌)、動物界(ホヤ類)で生産されている。従来これらのセルロースはそれぞれの由来の違いにもかかわらず、分子特性・分子構造はすべて同じであるというのが常識であった。しかし我々はこれら由来の異なるセルロースを、溶媒系LiCl/DMAc及びLiCl/DMIに溶解させることによって、それらの分子特性に明白な違いのあることを見出した。LiCl/DMAc系に植物由来のセルロース(針葉樹、広葉樹セルロース、綿セルロース)は溶解し等方性溶液となる。バクテリアセルロースはある濃度以上では液晶となり、ツニシン(ホヤ由来のセルロース)は溶解しない。尚ツニシンはLiCl/DMIには溶解することが我々によって見出されている。このように溶解性が異なるということは、分子特性に何らかの違いがあるということを意味する。光散乱によって測定したセルロースの重量平均分子量は、針葉樹、綿、バクテリア及びホヤ由来のセルロースで、それぞれ98.2x10^4,170x10^4,192x10^4及び413x10^4であった。 さらに当研究では、各セルロース溶液のレオロジー特性を測定し、由来によるセルロースの分子特性の違いを明白に示すデータを得ている。溶液粘度(縦軸)とセルロース濃度(横軸)の関係は、分子間相互作用の無視できる低濃度領域では、全ての試料のデータは一致し、勾配1の直線で表される。一方、分子間相互作用が重要になる高濃度領域では、植物由来のセルロース系のデータはほぼ完全に一致し、粘度は濃度の4乗に依存する。これは植物由来のセルロースは、ほぼ同じ分子特性をもつことを意味する。一方、バクテリアセルロース及びツニシン系ではそれらとは一致せずに、それぞれ粘度は濃度の3乗及び8乗に依存する。これは、植物由来のセルロース、バクテリアセルロース、ツニシンはそれぞれ分子間相互作用の機序あるいは強さに違いのあることを示している。さらにバクテリアセルロースの液晶性及びツニシン溶液の高い曳糸性を利用することによって、高強度の新規セルロース繊維を創製できる可能性が示された。
|