研究概要 |
本年度は、材質に影響する因子の中から、抗菌性、耐寒性、樹幹凍結による傷害などに着目して、それぞれの立場で検討した。 1)スチルベン合成酵素(STS)遺伝子は、抗菌性二次代謝産物産生を通じて材質劣化防止に寄与している。昨年度クローン化した3種類のSTS遺伝子を大腸菌で異種発現させ、STSの酵素的性質を精製後詳しく調べた。3種類のSTSのアミノ酸配列は高度に保存されているにも関わらず、抗菌性二次代謝産物の産生能力に大きな差が認められた。このうち1種類は従来報告されている裸子植物STSの中で最も高い抗菌性二次代謝産物の産生能力を備えていた。 2)温帯果樹の温州ミカンから、低温に応答する遺伝子デハイドリンを単離した。デハイドリン遺伝子をタバコに導入して高発現させるとタバコの低温耐性が向上した。ミカンのデハイドリンは、形質転換タバコの細胞質とミトコンドリアに局在する上、ラジカルスカベンジャーとしての活性があったので、低温ストレスによって細胞質やミトコンドリアで生じた過剰の活性酸素を除去してタバコの低温耐性を高めた可能性がある。 3)チャ樹のやぶきた(中国種)とPKS47(アッサム種)の培養細胞の高・低温の生育特性を比べた。前者は低温(15℃)に強く、後者は高温(35℃)で強かった。どちらの細胞も低温によってエピカテキンの濃度が増加し、逆に高温ではカフェイン濃度が増加した。ただし、やぶきたの方がPKS47より、低温でのエピカテキンの濃度が1.5倍多く高温でのカフェイン濃度が1.5倍少なかった。どちらの物質も活性酸素の消去機能があるので、これらの応答は温度耐性の原因である可能性がある。 4)近年,高樹齢の人工林で集団枯損が増加傾向にある。1999年6月に北海道阿寒町のトドマツ壮齢林で発生した集団枯損の原因解明のため調査を行った。枝への傷害組織形成は特定の年度に多発しており,気象要因によることは明らかであるが,枝の凍結死に起因するものではない。被害地での温度等の側定により,冬季でも気温が0℃を越えると梢端部で蒸散が起こること,樹幹の樹液は最低気温がプラスに転じる3月下旬まで凍結していることが確認された。過去の気象データによると1999年は早春の気温変動が大きく,91,96年も類似の傾向があった。以上の結果から,同地域の集団枯損は,早春の樹幹凍結時期の気温上昇により蒸散が起こり,枝から下方に向かって脱水が進行したためと推側された。 以上を総合すると、病害や気象害による材質の劣化とそれらの現象に深く関わる可能性を持った因子や遺伝子の性質が少しずつ明らかにされつつある。
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