研究概要 |
本研究では,スルメイカを対象として,短・中長期の気候変化に伴う再生産-加入海域の物理・生物的環境の時空間的変化が,再生産-加入過程を通して,どのように資源変動へと影響しているかを明らかにすることを目的とした.平成12年度では,秋の再生産海域(隠岐諸島周辺海域)をモデル海域として,水中ロボットカメラ(以下ROVと略す)による産出卵塊の海洋中での分布状況,ふ化後の幼生の層別定量採集,CTD・ADCPなどによる流れ場の構造を調査し,産卵場の特定・ふ化後の幼生の分散と収斂,およびこの間における生残過程を追跡した. 計24点の観測の中で,隠岐・道後白島の北西約60kmの調査点でスルメイカ卵塊を観察できた.ROVによる映像では,カメラ前方から接近する卵塊を確認し,通過後にROVを後進させてカメラ正面に卵塊を捉えた.しかし,直後に背景のROV用ケーブルと補助ロープにぶつかり崩壊した.形状は,完全な球形ではなく,片側が溶解した不定球形をなし,大きさは短径50cm,長径90cmと推定された.この卵塊が存在した水深は95m,水温は約18°C,Sigma-Tは24.5であった.対馬暖流は,隠岐諸島の西から北側の水深200-300mの大陸棚上に沿って北東方向に流れていた.卵塊は,この流軸内にあり,隠岐諸島北西の島根沖冷水とのフロントに近い対馬暖流と底層冷水の密度(水温)躍層境界の表層暖水側に存在していた.今回の卵塊発見から,密度躍層の物理環境条件(水温:18°C, Sigma-T:24.5)が特定できる可能性を見出した.今後,同じ海域で実施した流れ場の観測データ,および多層式ネットによるスルメイカ幼生の分布・豊度・サイズを精査し,再生産機構の解明を進める.
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