研究概要 |
本研究では,スルメイカを対象として,短・中長期の気候変化に伴う再生産-加入海域の物理・生物的環境の時空間的変化が,再生産-加入過程を通して,どのように資源変動へと影響しているかを明らかにすることを目的とした.平成13年度では,12年度同様に秋の再生産海域(隠岐諸島周辺海域)をモデル海域として,水中ロボットカメラによる産出卵塊探査,ふ化幼生の層別定量採集,CTD・ADCPなどによる流れ場の構造を調査し,産卵場の特定・ふ化後の幼生の分散と収斂,およびこの間における生残過程を追跡した.また,1980年以降の20年間における日韓のスルメイカ漁獲量の経年変化から,毎年の資源量水準を求め,これを秋・冬生まれ群に分けて,再生産海域の海洋環境変化と資源変動の関係の解析を行なった.この結果,1990年代のスルメイカ漁獲量は1960-70年代の高水準期と同じであると判断された.まず,秋生まれ群の産卵場に関して,表層暖水の混合層下部の水温躍層が陸棚海底に達している場所は産卵に不適であること,主な産卵場は対馬海峡北東から隠岐諸島周辺に連なる陸棚上,対馬周辺および東シナ海の五島列島周辺であることが明らかにできた.さらに,ふ化幼生が輸送される海域は,山陰沿岸を流れる対馬暖流以外に,年によって朝鮮半島東岸の対馬暖流支流にも輸送されることが判明した.また,海洋GISを用いた1980年以降の秋・冬の産卵可能海域の季節・年変化の解析から,冬の産卵場の広がりは,アジアモンスーンの4年周期の変動と一致すること,1989年以降の温暖レジーム期には,冬の産卵可能海域が対馬海峡まで拡大して秋の産卵海域と重なっていること,1998年の一時的なスルメイカの不漁は,日本海全体の水温が高く,索餌回遊海域がロシア側200海里に拡大したためと推定された.
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