研究概要 |
生命活動に不可欠なDNAに刻まれた遺伝情報はまた,その生物の血縁関係や集団構造,さらには系統や進化について物語る貴重な情報源でもある。しかしそうした情報を,大部分の情報が存在する核ゲノムから入手することは意外に困難なことであることが明らかになってきた。それは,多くの遺伝子が重複しているなど核ゲノムが非常に複雑であるためである。そこで注目されるのが,コンパクトなミトコンドリアゲノム(mtゲノム)である。「高等動物」の場合,mtゲノムの相同性は確実で,組換えなしに遺伝するため,系統推定や集団構造解析のための情報源として,改めて注目される。しかし,脊椎動物の過半を占める魚類のmtゲノムについての知見はまだ限られている。そこで本プロジェクトでは,魚類の主要なグループを代表する多数の種について,mtゲノムの全塩基配列を決定することを試みた。そうして,その結果を比較分析することにより,魚類のミトコンドリアゲノムの実態を明らかにするとともに,mtゲノムデータから見た魚類系統の大枠を検討することを目指した。 手法の改良,分析設備の充実,さらに活力ある研究協力者の参入を得て,当初掲げていた,魚類の主要なグループを代表する約20種のmtゲノムの全塩基配列を決定するという目標を,10倍も上回る200以上の種からデータを得るという成果をあげることができた。この結果,遺伝子配置に関して,脊椎動物で初めての種々の変動がいくつも見つかった。また,真骨類主要グループ間の系統関係について,塩基配列データの分子系統学的解析の結果,ウナギなどが属するカライワシ類が従来想定されていたよりも系統的により"低位"に位置することなど,新たな知見が多数得られた。
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