1.本研究の実験動物であるキンギョの脳地図を作成した。 2.神経トレーサー標識法により、小脳体と小脳弁内側葉からは、主に対側の間脳・中脳・延髄、同側の小脳弁、両側の網様体に軸索を伸ばすことがわかった。遊泳との関わりでは、体側筋による遊泳の中枢である内側縦束核、鰭の運動に関わるとされる赤核が、どれもやはり小脳体と小脳弁内側葉からの投射受ける。さらに、小脳体と小脳弁内側葉は情動や学習などの高次機能をも営む可能性も示唆された。 3.トレーサーを小脳体の基部に注入し、小脳体のプルキンエ細胞層周辺にある樹状突起の発達したニューロンを標識した。これらは真骨魚特有の小脳出力細胞である広樹状突起細胞である。これの樹状突起が矢状断面に平行に広がり、またプルキンエ細胞層以外にも分布することを示したのは新知見である。 4.小脳体ニューロンの逆行性標識と伝達物質の免疫組織化学を同じ標本に施したところ、広樹状突起細胞は今回用いたどの抗体にも陰性であったのに対し、細胞はGABA陽性であった。これは哺乳類と同じであり、魚類では初めての知見である。 5.遊泳中のキンギョの小脳体からニューロンの電気的活動を数日間にわたり導出記録することに成功し、さらにニューロンの結合様式から推定されるスパイク波形に基づき、記録したニューロンの種類を分類した。 6.キンギョ小脳体の部分もしくは全部切除を行った。しかし、いずれの場合にも、魚の行動にはまったく異常が見られず、通常通り餌を取ることもできた。ただし、餌を見つけてから、そこまで行き、口に入れるまでの時間が長くなる傾向があった。 7.本研究を基盤として、高等動物小脳の基本形と考えられる魚類小脳の機能の解明がさらに進み、原始的小脳の担う役割が分かれば、増養殖に適した魚種系統を育種する場合の一つの選抜条件を与えるかもしれないし、また小脳の発達程度が飼育方法を検討する際の指標にもなりうる。
|