研究概要 |
アジア在来家畜の水牛は、湿潤熱帯に優れた適応能力を持ち、牛よりも粗飼料の利用性に優れていることが報告されている。本研究では、水牛の高度利用を図るための基礎的知見を得ることを目的に、1)体温調節反応、2)飼料利用性と産肉能力、3)繁殖特性の各側面について、水牛と牛の成績を比較検証することにより水牛の特性を明らかにしようとした。研究はタイ、フィリピンおよびイタリアの水牛研究者の協力を得て、主にタイおよびフィリピンで実施した。研究成果の概要は、以下のとおりである。 1)水牛は牛よりも高い水分代謝率を持ち、発汗や水分蒸散による放熱能力が低いものの、生理的な体熱蓄積量が大きく、これを顕熱放散によって効果的に放熱する特性を有することを明らかにした(業績1,2)。 2)水牛は牛よりも優れた乾物消化率を示し、飼料のエネルギー利用効率も高いこと、また、同年齢・同一飼養条件下で肥育した場合には、水牛は牛に比肩し得る産肉能力を発揮することを実証した(業績3,4,6)。 3)水牛には過排卵・体外受精などの人為繁殖技術の適用が難しいため、牛未受精卵を利用した体細胞クローン作出の可能性を検討した結果、異種間の核移植により移植可能な胚盤胞期胚の作出に成功した(業績5)。 4)これらの成果は、水牛は湿潤熱帯に適応する過程で牛とは異なる生理・生態的特性を獲得したことを証明するものであり、湿潤熱帯では水牛の特性を効果的に利用する新たな動物生産が可能であることを示している。
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