研究概要 |
概日リズムは一日の環境サイクルに対する適応で、生物の生活リズムの根底をなす機構である。生体の生理機能は、ほとんどが概日時計の支配下にあり、代謝、生理、摂食、生殖など動物の生産性に関連する要因の多くが概日時計の影響を強く受けている。概日時計は、時を知らせるだけでなく、一日の昼の長さを測り、それに応じて生殖腺活動が変化させる光周性反応や季節繁殖などの制御にも重要な役割を果たしている。概日時計の分子機構の研究は、ショウジョウバエやアカパンカビなどで進んでいたが、高等動物についての研究は遅れていた。しかし、近年ショウジョウバエの時計遺伝子ホモログ(PeriodやClockなど)がマウスで次々にクローニングされ、それらの遺伝子を用いた研究により、哺乳類の概日リズムの制御機構が急速に解明され始めた。一方、鳥類では研究が遅れていたが、最近我々は、世界に先駆けてウズラでPeriod(qPer2及びqPer3)とClock (qClock)遺伝子をクローニングし、その特性を明らかにした。本研究は、これらの時計遺伝子を利用して、鳥類概日機構と光周性測時機構について解析したものである。得られた成果は以下のようにまとめることができる。(1)時計遺伝子の発現解析:時計遺伝子は、松果体、網膜さらに多くの末梢組織に発現し、特にqPer2,3には明確な概日リズムが見られることがわかった(Molecular Brain Res,2000)。(2)視交差上核の同定:長い間不明であった鳥類の視交差上核を時計遺伝子の発現を指標として同定した(Am J Physiol,2001)。(3)視交差上核の時計遺伝子発現に及ぼすメラトニンの影響:メラトニンは鳥類の概日リズムの制御に重要である。そこで視交差上核の時計遺伝子の発現に及ぼすメラトニンの影響を検討した。その結果、メラトニンは時計遺伝子の転写に影響せず、視交差上核細胞間のカップリングに影響するものと推測できた(Eur J Neurosci,2002)。(4)光周性反応における時計遺伝子の関与:光周性測時機構における時計遺伝子の関連を調べるために、長日及び短日条件での時計遺伝子の発現リズムを視交差上核、松果体、漏斗核などについて調べ、視交差上核や松果体では時計遺伝子の発現パターンが変化するが、光周性反応の中枢である漏斗核では変化しないことを明らかにした(投稿中)。(5)卵巣における時計遺伝子の機能:卵巣における時計遺伝子の発現リズムを調べ、卵巣時計が排卵を制御する可能性を示唆した(投稿中)。(6)時計遺伝子の発生:ニワトリ胚を用いて時計の発生過程を調べた。その結果、恒暗条件下ではリズムの発振が生じないことを明らかにした(投稿中)。(7)光周性を制御する新規遺伝子:光周性反応に関わる新規遺伝子を発見し、その機能について明らかにした(投稿中)。
|