研究概要 |
プリオン病では異常型プリオン蛋白質(PrP^<Sc>)が中枢神経系に蓄積することが神経変性の原因である。正常宿主細胞に発現するPrP^Cが構造変化してPrP^<Sc>が生成する。PrP^CがPrP^<Sc>に転換する際には、既存のPrP^<Sc>が鋳型として働く。しかし、PrP^CからPrP^<Sc>へ転換する際の分子機構は依然不明な点が多く残されている。そこで本研究では^<35>S標識精製PrP^Cと精製PrP^<Sc>から構成される試験管内試験系を用いてPrP^<Sc>生成に必要なPrP^C-PrP^<Sc>分子間相互作用の解析を進めている。PrP^<Sc>生成は種特異的に起こることが知られている。例えば、マウスPrP^CはマウスPrP^<Sc>の存在下でPrP^<Sc>に転換するが、ハムスターPrP^<Sc>はマウスPrP^<Sc>存在下ではPrP^<Sc>に転換しないか、転換効率が非常に悪い。この点に着目して、PrP^C-PrP^<Sc>分子間相互作用を試験管内試験法を用いて解析した結果、ハムスターPrP^CはマウスPrP^<Sc>と結合するが、結合後の構造変化が起こらないことが明らかとなった。この結果は、PrP^CとPrP^<Sc>の結合は種特異性(PrPアミノ酸配列特異性)は低いが、その後の構造変化の過程で、PrP^C-PrP^<Sc>間のアミノ酸相補性が必要であることを示している。また、PrP^<Sc>の生成過程は生化学的にPrP^CとPrP^<Sc>の結合とその後に起こるPrP^Cの構造転換に区別できることもあわせて示している。 ^<35>S標識マウスPrP^Cとマウスから構成される試験系に非標識ハムスターPrP^CあるいはマウスPrP^Cをcompetitorとして加えたところ、非標識ハムスターPrP^CはPrP^<Sc>の産生を阻害したが、非標識マウスPrP^CはPrP^<Sc>の産生を阻害しなかった。しかし、いづれの場合も非標識PrP^Cは^<35>S標識マウスPrP^CのPrP^<Sc>への結合は阻害しなかった。この結果は、PrP^<Sc>に依存したPrP^Cの生成は連続的な重合反応であることを示している。また、異種PrP^CによりPrP^<Sc>の生成が阻害される事実は、異種PrP^Cがプリオン病の遺伝子治療に利用できる可能性を示唆している。 PrP^CとPrP^<Sc>の結合に関与するドメインを調べる目的で、各種PrP合成ペプチド(aa109-141,aa121-141,aa166-179,aa180-199,aa200-223,aa218-231)を用いてPrPペプチドとPrP^CあるいPrP^<Sc>との結合試験を行ったところ、aa109-141,aa166-179がPrP^Cと結合することが明らかとなった。
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