研究概要 |
異常型プリオン蛋白質(PrPSc)は感染因子プリオンの主要構成要素であり、その生成機構はプリオン病病因論の中心となる。プリオン(PrPSc)が外部から侵入すると、正常型プリオン蛋白質(PrPC)と会合して、PrPCをPrPScに転換する。この際、PrPScは鋳型(seed)として働く。本研究では、PrScをseedとするPrPSc生成過程におけるPrPCとPrPScの分子間相互作用を解析した。 マウスとハムスターのPrPを用いて、同種のPrPCとPrPScの組み合わせではPrPCはPrPScに転換するが、異種の組み合わせでは転換効率が非常に悪かった。しかしPrPCは異種PrPScと結合し得た。関連する一連の実験結果から、PrPScへの構造転換は、PrPCとPrPScの結合の段階ではなく、主に結合後の構造転換の段階で規定されること、構造転換の宿主特異性はPrP分子の中央部に存在する3アミノ酸の違いにより規定されることを明らかにした。また、PrScの生成に関与する微小環境の条件検討を行ったところ、グリコサミノグリカン(GAG)の構成要素である硫酸多糖がPrPScへの構造転換を促進することを発見した。硫酸多糖は細胞外間マトリックスに多く存在することから、PrPCは細胞膜上に発現することから、プリオン感染動物において細胞外マトリックス中の硫酸多糖がPrPC-PrPSc分子間相互作用に関与する可能が示唆された。さらに、PrP合成ペプチドを使用したPrPSc産生阻害試験の結果から、PrP119-141,PrP168-179,およびPrP200-223の合成ペプチドがPrPCとPrPScの結合を阻害することを見出した。これらのペプチドはPrPCと結合すること、およびβシート構造をとることから、ペプチドがPrPSc凝集体上に存在するPrPCとの結合ドメインを模倣すること、言い換えると、これらの領域がPrPC結合ドメインを形成する可能性が示唆された。PrPCとPrPScの分子間相互作用を解析する道具として、PrP分子に対するモノクローナル抗体(mAb)パネルを作製した。計34のmAbは認識するエピトープから10群に分類された。グループI〜VIIはPrP分子上のリニアエピトープを認識する抗体、グループVIII、IXはPrP分子上の構造エピトープを認識する抗体であった。また、グループIXはPrPSc特異的エピトープを認識する抗体である可能性が強く示唆された。このパネル抗体は今後のPrPC-PrPSc分子間相互作用の解析に非常に有用な道具となると考えられる。 以上のように本研究では、PrPC-PrPSc分子間相互作用の生化学的な解析から、その特性、必要な微小環境、会合に関与するドメインなどの一端を明らかにした。
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