研究概要 |
なるべく多様な分子マーカーを扱う手法を確立するため,以下のように分担して実験を行なった。 1.河原がアイソザイム分析を担当した。コムギ・エギロプス属全体で実験条件の設定を行なったあと,エギロブス属コモパイラム節の2種とAegilops umbellulataについて,種内変異を観察した。コモパイラム節の2種については,それらが遺伝的に大きく分化していること,またAe.umbellulataについては種内の遺伝的分化が地理的分布とほぼ対応していることを明らかにした。 2.コムギ・エギロプス属全体で利用できる新しい分子マーカーを開発するため,安井が近年Ae.umbellulataで発見したSINE配列の解析を行なった。その結果,この配列がコムギ・エギロプス属全体のほか,それらに近縁種なライムギ属やオオムギ属にも存在し,またパンコムギゲノム中に約10^4コピーと多量にしかも染色体全体にわたって散在していることがわかった。このことからSINE配列がマーカーとして有効に利用できることが確認できたため,現在Ae.umbellulataを材料として,クローニングとDNA配列の読み取りを行なっている。 3.これまでに各種の手法が使われてきた普通系コムギを対象に,森がAFLPの分析条件の検討を行なった。コムギはゲノムサイズが非常に大きいため,合計7塩基を選択塩基とするシステムを新しく開発した。普通系コムギ・栽培二粒系コムギ・タルホコムギの計90系統を用い,10組のプライマーを使ってAFLP分析を行なった。各系統ごとに487本のバンドを読みクラスター分析を行ったところ,Triticum machaとT.speltaはそれぞれ明瞭なクラスターを形成したが,T.aestivumとT.compactumは明瞭なグループに分かれなかった。 4.森はまたDNAフィンガープリンティング手法の開発を試みた。精密なフィンガープリンティングを行うため,葉緑体ゲノムに存在する24のSSR(simple sequence repeat)座を探索した。コムギの倍数種およびエギロプス属の11種43系統を用いて解析したところ,このSSR座は核ゲノムのRFLPとほぼ同等の高い多型性を示し,変異の解析に利用できることが明らかになった。
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