研究概要 |
1.分析手法の確立:分子マーカとして,酵素を利用するアイソザイム,DNA断片の多型を利用するAFLP,葉緑体DNAのフィンガープリンティングについて,それぞれ分析条件の絞り込みを行なった。これをもとにそれぞれ複数の種を対象として,変異の解析を行なった。アイソザイムはコムギ近縁野生種であるAegilops属の3種で,AFLPは普通系コムギとその祖先種の二粒系コムギとタルホコムギ,葉緑体DNAでは普通系コムギと二粒系コムギに加え,二粒系コムギの母系の祖先とされるAe.speltoidesを対象とした。とくに葉緑体DNAのフィンガープリンティングでは,二粒系コムギから普通系コムギに至る母系が2つ存在することを明らかにしたほか,これまで不明であったそれらの起原地を解明するなど,多数の新知見を得た。 2.新規手法の開発:コムギ近縁種全体で利用できる新しい分子マーカーを開発するため,我々がAe.umbellulataで発見したSINE配列の解析を行なった。その結果,この配列がコムギ・エギロプス属全体のほか,それらに近縁ないくつかの属にも存在し,また普通系コムギゲノム中に約10^4コピーと多量にしかも染色体全体にわたって散在していることを明らかにした。SINE配列をマーカーとして利用する可能性が確認できたため,エギロプス属の数種およびパンコムギを材料として,クローニングとDNA配列の読み取りを行なった。その結果,SINE配列には種特異的なもの,種を超えて存在し進化の初期に増幅したと考えられるものなど様々なものがあり,分子マーカーとして有用であることを確認した。 3.野生集団の予備調査:平成13年度河原・森・安井の3名で約1ヶ月,シリア・トルコ・ギリシャで予備的調査を行なった。シリア・トルコでは各研究機関と将来の研究協力について協議し,あわせて自生地の観察を行なった。ギリシャでは,エーゲ海東部の島嶼で自生地を調査し種子の収集を行なった。平成14年度には,森がトルコでコムギの祖先野生種の分布を調査した。
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