培養海馬神経細胞では、培養後10日から20日の間に興奮性シナプスの局在が樹状突起のshaftからspineへと変化する。この時期には活発な樹状突起上のspine(棘突起)でのシナプス形成が起こると考えられ、シナプス構造の形成過程を解析する良いモデルシステムになると考えられる。生きた神経細胞でのspineの形態を観察する為に、クラゲ由来の蛍光蛋白質GFPの波長変異体であるCFP分子を用いた。また、シナプス後肥厚部(PSD)の形態を同時に観察するために、PSDのマーカー分子であるPSD-95に、やはりGFPの波長変異体であるYFPを結合したPSD-95-YFPを作成した。CFPとPSD-95-YFPを、培養海馬神経細胞に組み換えアデノウィルスを用いて同時に発現させ、CFPとYFPの蛍光を取得することにより、spine形成に伴ってPSD-95が選択的にシナプス部位に集積する過程を可視化することができた。更に、シナプス前部構造への分子集積を可視化するために、シナプス小胞に特異的に存在する分子であるsynaptophysinにCFP分子を結合した融合分子を作成し、PSD-95-YFPとの同時観察を行った。この方法により、シナプス前部へのsynaptophysinの集積が、シナプス後部へのPSD-95の集積よりも時間的に先行して起こることがわかった。一方で、樹状突起のshaft部位に存在するPSD-95分子が、選択的に除去される過程も観察された。以上の結果から、海馬でのspine部位へのシナプス形成は、シナプス機能分子のspine部位への時間的に急速で、かつ秩序立った集積によって起こる事がわかった。
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