2光子励起可能で安定なケイジドグルタミン酸の合成に成功し、三次元的な任意の一点(1μm3以下)で光学的にグルタミン酸を放出することを可能にした。この手法を海馬スライス標本に適用することにより、樹状突起スパイン形態とグルタミン酸感受性に強い相関があることを初めて明らかにした。スパインのグルタミン酸感受性は興奮性シナプス結合の強さを決める重要な因子なので、大脳神経回路網の記憶はスパインの微細形態として蓄えられる可能性が示唆された。 ホルモンや神経伝達物質は、分泌顆粒膜と細胞膜が融合することによってできる小さな孔(融合細孔)を通って分泌される。我々はフェムト秒レーザーを用いた2光子励起断層顕微鏡法と水溶性色素を用いて、インスリン分泌組織(すい臓ランゲルハンス島)の内部で起きているインスリン開口放出を定量的に可視化し、更に融合細孔の動態を測定する方法論を確立した。一般に2光子励起法では、色素による内部遮蔽効果が生じず、また励起波長領域が広がるので、組織深部における高濃度色素による同時多重観察が初めて可能となる。そこで、大きさの異なる複数の水溶性蛍光色素を用いることにより、組織内部における融合細孔の動態をナノメーターの解像で測定することに成功した。インスリン顆粒の融合細孔は直径1.4nmから6nmに広がるのに2秒もかかり、直径が12nmに達すると内容物が放出され、顆粒膜は平坦化する。この様に融合細孔が著しく安定であるのは、顆粒内容物(インスリン)が結晶化しているためと考えられた。この安定性を利用して、融合細孔内壁の脂質の側方拡散定数を測定したところ、それは生体膜の定数とほぼ同じで、融合細孔は脂質膜のナノチューブであることが強く示唆された。我々の開発した方法論は開口放出現象の解明に広く応用可能である。
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