研究概要 |
本研究は、遺伝学および分子生物学的手法がフルに駆使できるモデル生物を用いて免疫抑制薬の副作用原因遺伝子候補を同定しようとするものである。分裂酵母のカルシニューリンは、免疫抑制薬によりその機能を抑制しても,野生株では生育には影響がない。免疫抑制薬の存在下において致死となる変異体(its変異体)を多数単離した。これらの変異遺伝子のコードする蛋白質は、生体にとって必須の機能をカルシニューリンと分かち合っている。これらの遺伝子のヒト相同遺伝子に何らかの変異がある場合、免疫抑制薬を投与し、カルシニューリンの機能を抑制すると、通常では認められないような副作用が引き起こされる可能性が高い。 本年度は,its3およびits8変異体のコードする遺伝子を同定し,解析を行った。 its3変異体をコードする遺伝子を単離し,配列決定をしたところ,ホスファチヂルイノシトール4燐酸(PI4P)をリン酸化し,ホスファチヂルイノシトール4,5燐酸(PIP2)を産生するPI4P5キナーゼをコードしていた。遺伝子破壊の結果,本遺伝子は生育に必須の遺伝子であった。PI4P5キナーゼは,細胞膜に局在し,細胞周期とともにその局在が変化した。 its8変異体をコードする遺伝子を単離し,配列を決定したところ,GPIアンカー合成酵素の一つであるヒトPig-nと高い相同性を有する蛋白質をコードしていた。its8破壊体の生育は非常に遅く,細胞形態は,多核多隔壁であった。Its8融合蛋白質は,小胞体に局在していた。 its3およびits8ともに温度感受性変異体を制限温度下に置くと,多くの細胞が分裂中隔を有した状態での増殖停止を起こしていた。これらの遺伝子は,哺乳動物細胞にもホモログが存在しており,酵母細胞と同様,細胞形態の維持に関与していると考えられる。
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