研究概要 |
本研究は、遺伝学および分子生物学的手法がフルに駆使できるモデル生物を用いて免疫抑制薬の副作用原因遺伝子候補を同定しようとするものである。分裂酵母のカルシニューリンは、免疫抑制薬によりその機能を抑制しても,.野生株では生育には影響がない。免疫抑制薬の存在下において致死となる変異体(its変異体)を多数単離した。これらの変異遺伝子のコードする蛋白質は、生体にとって必須の機能をカルシニューリンと分かち合っている。これらの遺伝子のヒト相同遺伝子に何らかの変異がある場合、免疫抑制薬を投与し、カルシニューリンの機能を抑制すると、通常では認められないような副作用が引き起こされる可能性が高い。 本年度は,細胞形態形成においてカルシニューリンと機能的に関連する遺伝子として新たに細胞質分裂を制御するseptation initiation network (SlN)経路の中心的役割を担う蛋白質キナーゼCdc7を同定した。Cdc7は生育に必須で,spindle pole bodyに存在し,変異により中隔を欠いた長い細胞ができる。我々が単離した変異型Cdc7は制御ドメインに変異を有し,spindle pole bodyへの局在能力を失っていた。更に,Cdc7以外にもSIN経路を構成すると考えられる遺伝子の変異全てが免疫抑制薬に対する感受性を示すことが明らかになった。逆に,これらの変異体の温度感受性は構成的活性型カルシニューリンの発現により部分的に抑圧された。本研究により明らかにされた遺伝学的関係は,カルシニューリンが細胞質分裂の制御にかかわる可能性を強く示唆している。
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