多細胞生物の個体維持には、細胞同士の情報交換が極めて重要である。細胞間結合には、細胞間の情報交換を効率化する仕組みが存在すると予測される。私共は、とくに神経シナプスと上皮細胞間結合の類似性に着目して、細胞間結合の基本構造を解明しようとしている。今年度は、上皮細胞間結合の裏打ち構造にあり複数のPDZ領域をもつ分子BAP1/MAGI-1が、上皮細胞の側面に局在決定されるシグナルが、そのC末端に存在することを明らかにしている。同時に、BAP1/MAGI-1の神経型アイソフォームであり、NMDA型グルタミン酸受容体と神経細胞接着分子に相互作用するS-SCAMのシナプスへの局在決定にもC末端部分が必要であること、しかし、C末端部分のみで側面に局在決定されるBAP1/MAGI-1とは対照的に、S-SCAMのシナプスへの局在にはC末端以外の領域も必要とされることを明らかにしている。この他、上皮細胞に認められる新規の裏打ち分子を見出しPAPINと命名して報告している。PAPINはBAP1/MAGI-1やS-SCAMと同様に、蛋白質結合領域として機能するPDZ領域を複数個もち、受容体や細胞接着因子と結合する可能性があると考えられる。そこで、現在、PAPINの性状の解析を進めている。また、S-SCAMとPAPINが、アルマジロ繰返し配列をもつカテニン・ファミリーの分子と相互作用することを見出し、カテニン・ファミリーの分子群とPDZ領域をもつ裏打ち蛋白質の結合が、細胞間結合の基本構造のひとつであるという仮説のもとにその生理的意義を解明しようとしている。
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