多細胞生物を構成する細胞には、上皮細胞間結合やシナプス、あるいはラフトなどの細胞膜ドメインがある。これらの細胞膜ドメインは、細胞極性と密接に関連し、細胞極性の結果として形成される一方で、細胞極性の維持に重要な役割を果たしている。したがって、細胞膜ドメインの形成の機序を解明することは、細胞極性の理解に重要である。私共は、これまでに上皮細胞間結合とシナプスの構造を解析して複数の新規分子を見出している。本科学研究費補助金対象研究においては、1)私共が先に見出したNMDA受容体を裏打ちするS-SCAMが、代表的な細胞膜裏打ち分子であるβカテニンとの結合を介してシナプスに局在決定されること、2)NMDA受容体の裏打ち分子PSD-95に結合するBEGAINが、神経細胞核にも局在し、樹状突起上の分子との相互作用を介して、細胞核から樹状突起に移行し、さらに、PSD-95との相互作用によりシナプスに局在決定されること、3)一方、PSD-95とS-SCAMに結合するMAGUINは、PH領域を介して、おそらく細胞膜リン脂質と相互作用することによりシナプスに局在決定されること、4)上皮細胞間結合を裏打ちするMAGI-1/BAP1が、やはりβカテニンとの相互作用を介して、上皮細胞側面に局在すると考えられること、5)上皮細胞を裏打ちするカテニン類似分子p0071に結合する新規のPDZ蛋白質PAPINが、上皮細胞の頂端面と側面の両方に局在し、側面においてはp0071を介してLAPファミリーに属するErbB2裏打ち蛋自質ERBINと複合体を形成すること、を明らかにしている。以上の研究より、細胞間結合においては、カテニン類似分子・PDZ蛋白質、LAPファミリー分子など細胞膜を裏打ちする分子群が一定の序列にしたがって相互作用し、このような分子間相互作用の結果、細胞間結合が形成される可能性を明らかにしている。
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